前回【6】では調理中に水分が油中を落下する動画を見て頂きました。
その際も書きましたように、一般フライヤーでも正常な性能が発揮されている状態では、水分は落下します。
ところが一般フライヤーでは容易にクールゾーンの温度が上昇してしまうため、鍋と変わらない状態になったり、それ以上に危険な状態になることがあります。
この動画は2017年2月に行っていた比較実験のなかで撮影されました。6分50秒と長いので、全部見たくない人は、3分15秒あたりから見て下さい。
そのあと様子がかわっていき、徐々に大変なことになります。
ぜひ見て下さい。
いかがでしたでしょうか。
以下、実験内容について簡単に書いておきます。
フライヤー機種および仕様等
国内大手厨房メーカー製。長年小さな修正を行いながら販売されていたもので、性能は安定しています。
単相200V 1.8kW
標準油量5L 温度調節はアナログダイヤル式です。
【カウンターの表示について】
画面左上のカウンターはキッチンタイマーなので、100分で1周してしまいます。動画は11分51秒から始まっていますが、その前にかなりの調理を行っています。
【データロガーの温度表示について】
油槽内に熱電対を入れてリアルタイムに温度計測しています。各温度表示は以下を示しています。
左上 ヒーター上面と同一の高さの油温
180℃設定で動画では182℃程度から始まっています。
左下 ヒーター上面から35mm下の油温
右 ヒーター上面から50mm下の油温 ほぼ油槽底部に近いです。
なお室温は21℃程度で、調理しているのは水で戻した凍み豆腐です。
また数回前の調理と調理の間に、氷の粒を3つ、合計約5gを投入しました。これは冷凍食品などに付着した氷の代替として行ったものです。
動画で見ていただいたように最初はなんの問題も無いように見えるのですが、途中から今までと違った音の油ハネが始まります。そして次第に音の頻度が高まり、やがて完全に沸き上がり状態になってしまいます。
跳ねた油の熱ラップは縮んで行き、危険を感じて電源を落としました。幸い油が比較的新しかったのでだいじょうぶでしたが、油の劣化が進んで粘性が高い場合には、吹きこぼれてしまい大変なことになります。
油槽内でどのようなプロセスが進行したのでしょうか。その答えは、画面に写っているデータロガーが捉えた温度変化を見れば説明がつきます。
このグラフは沸き上がりが発生した一般フライヤーの温度曲線と、クールフライヤー実験機(CFT-01=写真下↓)の温度曲線を比較したもので、どちらも180℃に設定されています。なお、この時点でCFT-01の温度制御はPID制御のチューニングが行われておらず、上下動が大きくなっています。
沸き上がりが状態が発生した一般フライヤーを見ると、底部からほど近い、ヒーター上面から50mm下の温度が徐々に上昇し、120℃を超えたあたりで底部に沈殿していた水分が気化を始め、気化による気泡が油を撹拌することでさらに底部の温度が上昇し、この繰り返しで最後は完全な沸き上がり状態になっていきます。
一方クールフライヤー実験機では、ヒーター上面から50mm下の温度は30℃未満で安定しており、35mm地点でも80℃まで達しません。この結果、安全な調理を継続することが可能です。
このように低温油層が低い温度で安定していること、これがが水滴の落下しやすさにつながり、油ハネも減少させます。
一般フライヤーでの沸き上がり状態と同条件で、試作実験機CFTー01の動画はこれです。↓
安定しすぎていて面白くないかもしれません。
水分をたっぷり含ませた凍み豆腐にもかかわらず、油ハネが少ないことなど、片鱗は感じられるのではないでしょうか。
また底部近くが30℃未満で安定していることにより、沈殿した揚げカスの炭化が進行することもなく、炭化した揚げカスによる自然発火事故からも無縁です。
(安全性については改めて書くつもりです。)
揚げ油と言えば、昔は火災事故原因の最たるものでした。家庭での油調理が減り、業務用ではフライヤーが普及して火災事故は減少したとも言えます。
それでも、まだまだフライヤーを含めて火災ニュースに登場することは多く、クールフライヤーの製品化によって、さらに安全で快適な揚げ調理を提供できたらと思います。
そして今後の開発についても、何より安全が最重要であることを肝に銘じて取り組みます。